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起きなさい、ガブリエル。もう起床時刻よ。
12歳のときに母を亡くし、父にも捨てられ、多感な時期を孤児院で過ごしたガブリエル・シャネル。彼女は毎朝、修道院の窓の外から差しこむ日差しで目覚めるとき、何を思ったろうか。
シャネルのガブリエル・オードパルファムは、4代目調香師となったオリヴィエ・ポルジュが、満を持して発表したシグネイチャー・フレグランスだ。14年ぶりとなるこの新しい香りの名前は、ココ・シャネルの本名、ガブリエル・ボヌール・シャネルからきている。極薄の美しいスクゥエアボトルに収まった金色の液体、それは一体どんな香りなのか?
半マットのゴールドメタルキャップを外してスプレーする。スプレーチューブは、昨今流行の極細タイプ。液体の中にあってもほとんど見えないという優れものの半面、ゆっくりスプレーボタンを押すと、液体が細い水流状に出てしまうので、押し方には注意が必要だ。
トップの香りは、酸味と苦みが印象的なグレープフルーツの風。その下からはかなげなジャスミンが柔らかく香ってくる。朝の光を感じさせるような、さっぱりした明るいオープニングだ。体温高めの自分の肌では、酸味と苦みはすぐに消えて、こんもりクリーミーなジャスミンと綿あめのような甘さが広がってくる。この甘さはブラックカラントのようだ。
やがて香りは、高音のシトラスから、このフレグランスの真骨頂であるホワイトフローラルブーケに移り変わってくる。このトップからミドルへの変化が、香りのグラデーションになっていてとても美しい。酸味と苦みから甘味へ。スッキリした爽やかさからふくよかな女性らしさへ。さながら少女から女性へと成長していく過程を表現しているかのよう。
ガブリエル・オードパルファムは、シャネルが大切にしてきた「花」を深く追求した作品だという。オリヴィエ・ポルジュはインタビューの中で、「ホワイトフローラルブーケが作りたかった。まばゆいルミナス、太陽のようなフレグランスを。」と語っている。選ばれた4つのキー素材は、チュニジアのオレンジフラワー、エジプトのジャスミン、コモロのイランイラン (シャネル独自の抽出)、そして、グラースで栽培されたチュベローズ。
ミドルで特に感じられるのは、この4つのうち、ジャスミンとチュベローズだ。ただ日によって異なる。これまでのシャネル作品のような濃厚さではないものの、イランイランぽい低いエキゾティックな香りがしてドキリとすることもある。これらの花々のエキスはおそらく本当にシャネルが自信をもっている特別な香料なのだろう。特にチュベローズ。チュベローズはもともと動物の尿のような強いサブファセットも持ち併せているけれど、ここで初めて使用されたというグラース産のチュベローズは、ベルベットのように艶やかでなめらかだ。
ラストは、ややソーピーなツンとしたホワイトムスクが出てきてフェイドアウト。シングルフローラルとも言われるが、付けてから3時間ほどするとかなりホワイトムスク系の渋みは感じられ、変化してくる。ちょっとメンズっぽく感じるラストだ。全体で3〜5時間で消えていく。
ガブリエルは、シャネルならではの贅沢な花のエキスを調合して作られたホワイト・フローラル・ブーケだ。オリヴィエはジャスミンを基調としつつ、そこに新しいチュベローズを配合することで、これまでの世界にはない新しい花の香りを創造しようとした。ただ、そこにガブリエル自身のドラマはなかったように思う。
3代目調香師であり、父でもあるジャック・ポルジュは、いつも丹念にココ・シャネルの言葉、作品、暮らし方をなぞり、そこからインスピレーションを得て香りを創作した。だが、オリヴィエは異なる。彼は言う。「次はホワイト・フローラル・ブーケが作りたかった。ガブリエルというのは創作インスピレーションの源ではない。後から自然におりてきた」と。
自分はそこが残念だった。香料はすばらしい。ただこの香りにはこれまでシャネルのどの作品にもあった「顔」と強さがない。それは、ガブリエルという女性からイメージした作品でなく、まず香りありきで作られたせいかも知れない。もしどこにでもありがちなフローラルと感じたなら、これはもうシャネルじゃない。
母が生きていたら…。孤児院の貧乏生活から這い出る日を待ちわびていたガブリエルは、きっとそう思ったことだろう。痛くて、辛くて、憎しみに囚われていたガブリエル。それが彼女自身の生きていく強さにつながっていったであろうことは想像に難くないけれど。
だから、何度も思ったはずだ。朝の光を受けて目覚めるとき、母が幼い頃の自分にかけたであろう太陽のようなまなざしと優しい声を。
さあ起きて、ガブリエル。私の可愛い子。
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