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夜の焚き火のようにダークで温かく、毛布のように柔らかくて心地よい香り。とにかく角のない、ほっとさせられる香りです。トップノートのなめらかさにはルール・ブルーの面影もありますが、決定的に違うのは熱を秘めているところ。熱帯雨林にかかる霧のようなそんなイメージです。
ほんの僅かですがトップノートの中に焦げ臭いような、燃料のような匂いが感じ取れることがあります。名前のせいで私が勝手にそうイメージしてしまうのかもしれません。飛行機の匂いを狙ったものだとしたらとても面白いですね。
TOP:シトラス、プティグラン、セージ、アルデヒド
MIDDLE:スミレ、ローズウッド、パルマローザ、ジャスミン、水仙
BASE:バニラ、安息香、ペルーバルサム、ムスク、オリス、シダーウッド、トンカビーン、オークモス、白檀、カストリウム(海狸香)
花と香木を中心としたコンポジションですが複雑に絡み合っているため個々の香りを嗅ぎ分けることは非常に難しく、それゆえに抽象的な香りになっています。ベースノートのバニラですら馴染みのあの匂いにはならず、謎めいた香りの一部となって姿形が見えないほどです。
動物香料であるカストリウムのせいか優しさだけでなく力強い野性味や男っぽさも感じられます。男性がつけても素敵だと思いますよ。むしろ家を遠く離れた冒険野郎にこそ必要な香りに思えます。
私は春夏にはシャネルの19番、秋冬には夜間飛行を使っています。涼しい香りと温かい香りの衣替えみたいな感じです。どちらもユニセックスで野生的な雰囲気が似ています。フェミニンなものに照れてしまって馴染めない自分にはこういう方が落ち着くんです。
【小説『夜間飛行』と合わせて】
黄昏時の情景をモチーフにルール・ブルーを作ったジャック・ゲランのことを思いながらサンテグジュペリの『夜間飛行』を読むと、彼がこの小説のどの部分を香りで表現しようとしたのか分かります。
『夜間飛行』は航空事業の黎明期に、夜間定期便を確立すべく苦闘を続ける男たちの物語です。まだレーダーも実装されていない時代、途切れ途切れの無線を頼りに真っ暗闇の中で孤独なフライトを行うパイロットたち。ほんの些細なミスで老練整備士がクビにされる非情な職場。彼らは互いへの友愛の感情を押し殺し、冷徹に働くのです。ひとえにパイロットの生命を守るため。
パイロットが暗闇の中に探し求める地上の家灯り。そこには彼らが熱望しつつも犠牲にせざるを得ない人間らしい暮らしの温かさがあります。そして、恐ろしい闇の世界に終わりを告げる夜明けの黄金の光。
ジャック・ゲランの興味を引いたのはおそらくこのような光の描写でしょう。生活の光、生命の光。しかも彼は光そのものといった明るい香りにはせず、分厚い霧の向こうに光を垣間見るような独特の暗さを出しています。小説の男たちの視点です。
湿った南国の風のようなトップノートはパイロットを死闘に追いやった颶風(ぐふう)の前触れを思い起こさせます。
飛行機のプロペラをモチーフにしたアール・デコ様式のボトルデザインはあまりに有名ですが、『夜間飛行』を読んでから改めて見ると色々と考えさせられます。Vol de Nuit(夜間飛行)と綴られた金属板が白銀でも銅でもなく金色であるのは、小説のなかで繰り返し描かれる夜明けの黄金の光を表しているのかなと思いました。
そして、ボトルを裏返してみればそこに大きな太陽が彫られているではないですか。物語の男たちが待ち焦がれる夜明けの光ですよ。
こうやって物語と結びつき、次から次へと浪漫を掻き立ててくれる香水はなかなかありません。傑作です。
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