ザ・ディファレント・カンパニー / ボアディリスオードトワレ 口コミ

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doggyhonzawaさん
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4購入品

2016/8/6 02:45:15

やまない蝉の声。あたためられた木々の葉の青い匂い。斜めに傾いたオレンジの日差し。遠くから聞こえる太鼓の音。今日は年に一度の夏祭り。はやる心。あの子も祭りに出かけるだろうか?

ディファレント・カンパニーのボアディリスの繊細な香りは、なぜか遠い日の夏祭りの夕べを思わせる。淡く、うっとりするほどせつなく、ほろ苦い思い出。この香りは、人の心にそんな記憶を呼び覚ます。

ボアディリスは、2000年、ジャン・クロード・エレナの調香によって作られたフローラル・ウッディ系のオード・トワレだ。痺れるような甘苦いクローブと、世界で最も高価な香料の一つであるアイリスルート(アイリスの根)のブレンドが心地よい作品。

ボアディリス。直訳すれば「アイリスの木」。おそらくアイリスという植物そのもの、といった意味になるだろう。そんなボアディリスのトップは、ほんの一瞬ながら、とても透明感のあるスッキリした柑橘とインクの匂いが混じったような出だしで始まる。

そして2分とせず、鉛筆を削ったようなシダーの清涼感と、甘く痺れるような辛みをもったクローブの香りが主張してくる。まず、ここで好き嫌いが大きく分かれるだろう。

クローブの香りはキッチンスパイス系の香りの中でもかなり強いもので、肉料理などを連想させることも多いが、一歩間違うと懐かしい仁丹をかじったような、または歯科医で歯に詰める薬のような独特の甘辛い苦みをもつ。自分は、若かりし頃ときどき吸ったインドネシア産のタバコ、「ガラム」の味を思い出すが、相当にくせのある香りだ。これがボアディリスのトップ〜ミドルにかなり強く出てくる。

その特徴的な苦みがデクレッシェンドしていくにつれ、下から顔をのぞかせてくるのが、白くパウダリーな香り、アイリスルートの熟成香だ。このアイリスの香りの、なんと優しくせつないこと。クローブのキリッとしたエッジ、ゼラニウムの涼しげな香りがほんのり色を添えた真っ白なパウダー香は、案外高めの音で鳴り響く。まるで、高純度、高品質の大人用ベビーパウダーのような香りだ。これがミドル〜ラストの香り。

このあたりの香りは、同じくアイリスの香りを中心にすえたディオールのボワダルジャンのミドル〜ラストに似ていて、好きな系統の香りだ。どちらもミドルで、シンプルなアイリスの香りを楽しんでもらえるように構成しているように思う。

ただ、ボアディリスの香りは、2時間程度であっけなく消失してしまう。この点が歯がゆい。世界一高価な香料の一つと言いながら、実際にはアイリスの香りだちがとても淡く、うっすらとしか感じ取れないのが残念だ。コロン並の淡さ。それでいて値段は高い。確かに、高品質のラグジュアリーを目指してディファレント・カンパニーを作ったのだから、調香師としては高価な香料をふんだんに使って好きなように作れてよいかも知れない。だが、アイリスの香りに特段の思い入れがない人には、値段が高すぎて、淡すぎて、そして、スパイスが強すぎると感じてしまう人が多いだろう。だから、使い方も含めて、かなり敷居の高い、上級者向けの香りといった感じがしてしまう。

とはいえ、外気温が下がり、ムンとしていた熱気と湿り気が不意に凪いだ夕暮れ時、アイリスのパウダリーな香りを嗅ぐのは、至福の瞬間だ。幼い頃、夏にあせもが出ると、母がふかふかのパフで天花粉をつけてくれたからだろうか。自分にとってアイリスは、夏に郷愁をそそる香りだ。天花粉の原料は、キカラスウリの根から採れる澱粉だという。アイリスもまた、根茎を何年も乾燥させて白いパウダーを精製するのだから、香りが似ているのかも知れない。

何かが始まりそうなドキドキ感、まるで心の導火線に火をつけたような火薬っぽいスパイシーさが、トップのクローブの香り。さながら、夏祭りの提灯に灯がともり、祭り太鼓に笛の音が重なり、軒をつらねる夜店の屋台から、煙とともに焼き物のいい匂いがそこかしこに漂い始めた時の高揚感。

そして、夜の訪れとともに、興奮は次第に和らぎ、アイリスのクリーミーなパウダーの香りがそこはかとなく立ちのぼる宵を迎える。それは、髪をまとめ、白いうなじを見せた女の子たちの浴衣姿とすれ違うときのよう。わずかに箪笥の奥のおしろいや樟脳の匂い、そこにシャンプーのふわりとした香りが混じり、鼻と心をくすぐる。

威勢のいい男衆の声。女の子たちの笑いさざめき。夜空をバックに揺れる色とりどりの提灯。焼いた飴の匂い。蝶の形に結ばれた艶やかな浴衣の帯。そして

人混みの中、やっと見つけたあの子の浴衣姿。見つけたくなかった、隣に並んだ見知らぬ男の浴衣姿。

鼻の奥にツーンとくるせつない思い。まっさらでピュアなハートの香り、ボアディリス。

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