キャロン / ヤタガン 口コミ

アットコスメ > キャロン > ヤタガン > 口コミ一覧 > doggyhonzawaさんの口コミ

クチコミ

クチコミ4件中 1件目を表示

doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん500人以上のメンバーにお気に入り登録されています認証済

1購入品

2016/10/1 01:20:00

もうそろそろ本当の話をしよう。いくらルカ・トゥリンらが「世界香水ガイド」で絶賛した香水だとしても、必ずしもすばらしい作品とは限らないということを。むしろ彼らが好む香りはやや偏っていて、一般の方にはなじみにくい複雑かつ風変わりな香りが多いということを。

キャロンのヤタガンは、そんな「匂いの帝王」ルカ・トゥリン一押しの名香だ。1978年発売、調香師はヴィンセント・マルチェロ。ヨーロッパ方面に愛好者が多いシプレ・レザリーの逸品とされる。だが、残念ながらここは日本だ。この国に愛好者が多いとは言えない。それは、このヤタガンが、かなり独特の強い香りをもっているからだ。

ヤタガンを1プッシュする。そこから立ち上る香気を嗅ぐ。すると、初めて嗅いだ人はかなりの確率で眉間にしわを寄せ、嫌悪感を露わにするようだ。自分の周囲でも試したが、5人中5人が「うわ!」と言って無意識に顔を遠ざけた。

なぜなら、ヤタガンのトップは、苦みと辛みが強い漢方薬をミックスした匂いがするのだ。ひどく乾いていて、そしてギリギリと音がするくらいビターな薬草の匂い。例えるなら、30年ほど前に全国的に大流行していた健康ランドの「薬湯」の匂い。数種類の漢方薬がミックスされていて、皮膚の一部がヒリヒリすることで有名だったあのくぐもった薬湯の匂いそのものだ。理由は、このヤタガンの香りのキー素材ともなっているアルテミシア(ニガヨモギ)の香りだ。ハーブと言えばきこえはいいが、完全に野草っぽい雰囲気がする。

それでも、開始はまだラベンダーの清涼感、樹脂系のこんもりとした香りが心地よいのだが、すぐさま、松脂のツンとした香り、ニガヨモギの深緑色の苦みと辛みが、鋭く鼻に突き刺さってくるようで、まさにヤタガン(オスマン帝国で用いられていたショートソード)の刃先のよう。甘さも爽やかさも華やかさもそこにはいっさいない。ただ強く、鋭く、ジリジリと神経を昂らせてくるような薬草と針葉樹のとげとげしい香り。そんなミドル。

やがて3〜4時間もすると、ダークなオリーブグリーン系だった薬草テイストの香りが、いつしかダークブラウンのレザリー&ウッディなコンポジションに変わってくるのが感じられる。かなりアニマリックで、一説にはビーバーのカストリウムを使用しているとのことだが、確かに焦げ茶色の動物の分厚い革の匂いのような荒々しさがある。相変わらずギリギリした苦みは継続していて、モス系のやや濡れたような土っぽい香りと相まって、深く暗い森の奥で動物の毛皮の匂いと木々の香りに包まれているような雰囲気マックスになる。そして、ドライダウンしていくが、かなりのロングラスティングだ。付けた部位によっては、7〜8時間以上香りが漂っていることもある。最後の最後まで、あまりに男くさい。針葉樹と薬草くさい。ビーバームスクの革くさい。こんな強烈な香りは、日本人には本当になじみが少ない。

思うに、身体の大きなひげもじゃ系、胸毛系の外国人の男がこの手の香りを漂わせていたらすごく似合うのだが、日本人の男でこれをつけこなして似合う人は本当に少ないのではないだろうか。まず第一にこの香りをつけているだけで、申し訳ないけれど周囲から「お年寄りの匂いがする」ととらえらえることが多いようだ。ちなみに自分の17歳になる娘からは、遠慮も何もなく「じじくさ!」の一言で鼻をつままれてしまった。それがヤタガンのせいなのかどうかは不明だが(笑)、香りイノセントなJKごときにたった4文字で斬られるとは、何だかヤタガンでスパッと切り捨てられたようで、かえってすがすがしい切られざまだった。

東ローマ帝国を滅ぼし、地中海沿岸を含め、広大な規模に勢力を広げたオスマン帝国、その進撃には常に、S字カーブの入った鋭い剣、ヤタガンが騎馬隊と共にあったという。その外側に湾曲した刃先は、遠心力によって殺傷能力を高めるための仕様。あらゆる者と物を切り刻み、西欧キリスト教世界を脅かしたトルコの衝撃は、ヤタガンの香りとともに、戦いの歴史の片鱗を今に伝えている。

こんな強烈な香りは誰にも勧められない。自分でつけたいと思うことも少ない。けれどなぜだろう。時折そっとかいでは、気分の高揚を得ることがある。きっとこれは男にとって危険な香りなのだ。何か攻撃的な思いに心がとらわれているとき、こんな苦みばしった突き刺してくるような香りがそばにあると、どこか安心する。それはとても不思議で懐かしいような感覚だ。

ヤタガン、それは、男性のための香りではなく、男の攻撃性を鼓舞する匂い。心に鈍く光る刃をたずさえ、乾ききった現代の荒野を彷徨する粗野な男の匂い。

  • ヤタガンをもつオスマン帝国の戦士 by doggyhonzawaさん
  • ヤタガン by doggyhonzawaさん
使用した商品
  • 現品
  • 購入品

doggyhonzawaさんのクチコミをもっとみる

キャロンについて

メーカー関係者の皆様へ

より多くの方に商品やブランドの魅力を伝えるために、情報掲載を希望されるメーカー様はぜひこちらをご覧ください。詳細はこちら

ヤタガンページの先頭へ