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「香水なんてシミを消すわけでもないし、肌にいいわけでもない。何の効果があるの?」コスメに機能を求める方は言う。そのとおりかもしれない。ざっくり言えば香水なんて香りをつけたアルコールだし。それでもあえて言う。香水はすごい。それはときに人の心や世界の流れまで大きく変えることがあるからだ。
ここに1本の有名な香水がある。細長い円錐形のすりガラスボトルに入った透明な液体。作品名はロードゥイッセイ(イッセイの水)。世界的デザイナーとして有名な三宅一生氏の最初の香水にして最大のヒット作だ。このオードトワレは、それまでの香水文化を大きく変えたといっても過言ではない。
ロードゥイッセイは、まず人の心を大きく変えた。「香水なんて派手だし、くさいし、嫌い」そう感じていた女性たちがこぞってこの香りを買うという現象を生んだ。もともとこの香水は、香水嫌いで有名だった三宅一生氏のブランド戦略として提案されたもので、当然ながら彼は最初は乗り気ではなかった。しかしどの服飾ブランドもイメージアップ戦略の一つとして香水を扱いだした流れにもまれ、遂にイッセイ・ミヤケの香水を出すことが決まったとき、彼は新人調香師に向かってこう言った。
「創るなら、ぼくを驚かせる香りであってほしい。それは例えば、自然の中で深呼吸しているような香り、水のような透明感のある香りだ。」と。
それを聞いた関係者は、みな首をすくめたという。「水の香り?そんなの作れるか。作ったとしても売れるわけがない。」だが新人調香師だけは違った。当時、カルバンクラインのエスケイプで大量に使用された新しい人工香料カロンを使えば、彼の厳しい要求に応えられるかもしれない。そう感じていた。
その調香師の名はジャック・キャバリエ。今でこそルイ・ヴィトンの香水部門の専属パフューマ―として世界的に有名な彼だが、当時はフィルメニッヒ社に入ったばかりの無名の新人だった。彼は試作に試作を重ね、1992年、今までにない新しい香りをこの世に誕生させた。それまで派手なフローラル中心だった濃厚な香水は日本のバブル崩壊と共に影を潜め、時代はこのあっさりとした優しい香りを全面的に迎えた。世界は緊縮財政に向かい、香水業界はこの香水のヒットをきっかけに、新たなトレンドである「水の香り」「オゾン系」「マリン系」「ユニセックス」へとシフトしていった。
そんな記念碑的な香りとなったロードゥイッセイ、どんな香りだろうか。
ロ―ドゥイッセイをスプレーすると、まず広がるのはユリの花のたおやかな香り。そこにシクラメンの低いしっとりした香りが混じってくる。トップからフローラルブーケ全開で、シトラスはない。水滴がしたたるような白い花の香りだけが漂う。そこにわずかにツンとした透明感ある匂いがする。うっすらと潮風のように吹き抜ける感じがあって、それでいて花の香りもするカロンという香料だ。
このカロンという香料物質こそ、このロードゥイッセイ最大の特徴。よくいう「メロンのような香り」と称される元祖「瓜系」の香り。カロンは1960年代にファイザー社で開発された人工香料で、もともとは洗濯洗剤の基材臭をマスキングする目的で研究されていたものだ。これが1980年代になって少しずつ香水に使用されるようになり、脚光を浴びた。ロードゥイッセイはこのカロンを多用したことで「みずみずしさ」や「しっとりした空気感」を表すことに成功している。そのため、オゾン様ノートの元祖とされる。
優しく穏やかな香り立ちに思えるが、実はかなり強い拡散力をもっているので、気を付けないと周りにとても迷惑をかける類だ。人工香料が多く使われているため、天然香料の多い香水に比べて香りがシンプルで透明感が感じられるというメリットがある反面、強い香りがずっと続くという特徴がある。付けた瞬間に鼻を近づけたりすると、頭痛をおこしかねないので付け方には注意が必要だ。ラストまであまり変化なくウォータリーな白い花のブーケが6〜8時間ほども続く。香水が苦手な方になぜかこの香りを好む人が多いのも特徴だ。今となってはこれに似た香りはたくさんあるが、26年前は本当に新鮮だった。まさにこの一滴がその後の世界を変えた。
大河も海も「一滴の水」の集まりでできている。三宅氏は常に「1枚の布」という素材勝負のデザインをし続けてきた。この香りから始まったオゾン系の「大河の一滴」は、今なお多くの香りを生み続けている。円錐型の美しいボトルは、エッフェル塔の上に満月が重なった姿と同時に、一滴の水がはじけた瞬間を表しているという。
ロードゥイッセイは、香水界の「大河の一滴」だ。たった一滴で混沌とした時代の空気を塗り変え、文化という水の流れを変えた美しい香りだ。
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