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クチコミ
ミツコをよくつける。チャップリンに憧れて。
彼の愛用香水と知って試しもせずに購入。現代では殆ど見かけないクラシックな香調は、少し影のある雰囲気の大人なら男女問わず似合う。
トップはベルガモット、オークモスなどの古典的なシプレー。小枝や木の葉が落ちている林の小道をゆっくり散歩している気分になる。大きな桃の木があるようだ。果汁をたっぷり含んで食べ頃になった白桃に加えて、まだ成長途中の硬いものもいくつか混ざっている。手を伸ばしてフワッとした短い毛足の産毛を撫でてみたい。
ミドルでジャスミンやローズなどの花の香りが漂ってくる。それは思い出の中にひっそりと咲き続けている現実よりずっと美しい花。まるでガラス細工で作った薄い花弁のようなデリケートさ。
ラストはベチバー、オークモスなどの大地を思わせる香り。シナモンを含むスパイスもうまい具合に効いている。まるで子供の頃よく行っていたお気に入りの場所を大人になってから訪れて、懐かしい香りを深呼吸で身体の隅々まで取り込んだように感じる。
喜びの中にある哀愁、華やかさの影といった風情がいい。ゴージャスだがどことなく寂しげだ。季節で言えば秋。収穫を祝った後に冬がやってくる。何かを得たのと同時に何かが終わった瞬間の、淋しい部分を切り取ったかのようなニュアンスがある。
言わば古い写真のような薄墨色の香り。薄い上品な黄色の液体だが、香りの印象はセピアだ。チャップリンのサイレンス映画に出てくるヒロインはおしなべてこの香りが似合う。ミツコをつけているうちに、街の灯という子供の頃大好きで、何回も繰り返し見ていた映画を思い出した。
ストーリーは...
チャップリン扮する浮浪者が貧しい盲目の花売り娘に一目惚れ。彼女のために仕事を得て稼いだ、なけなしのお金で花を買うお得意さんになる。彼が去っていく時にタクシーの音も同時に聞こえたので、娘は彼が金持ちだと思い込んだ。彼はある日盲目が治るミラクルな手術があることを知り、その資金調達に大奮闘。億万長者と知り合いすったもんだの挙句、まんまと彼に資金を出させることに成功。そのお金で花売り娘に手術を受けさせてやり、彼女は目が見えるようになる。しかし色々あって彼は強盗と間違えられ逮捕されて刑務所送りに。出所してトボトボ歩いていると悪ガキどもにからかわれて激怒。偶然にもその場所は目が見えるようになった花売り娘が経営する立派な花屋の前だった。一部始終を見ていた娘はかわいそうに思い一輪の薔薇を手渡す。懐かしい優しい手の感触。彼女は気づいてしまう。名もわからぬ善意の金持ちではなく、落ちぶれたみすぼらしい身なりの彼こそが恩人であると。その時のチャップリンのどう反応していいのかわからなくなってしまったバツの悪そうな顔。
切なさで胸がはちきれそうになる、そのシーンに思いっきりミツコを吹きかけたい。何故かと聞かれても説明できないけれど。
子供の頃に父に見捨てられ、売春までしてチャーリーとシドニーの2人の子供を育てようとした母ハンナは、梅毒に感染し生涯を精神病院で過ごす羽目に。幼い2人の兄弟は孤児院で育ち、そこを出てからも着ている服を質屋に入れて食費を捻出するほど苦労した。そんな生い立ちも手伝ってチャップリンの映画は爆笑の裏に溢れんばかりのペーソスがある。「人生はクローズショットでは悲劇だが、ロングショットでは喜劇だ」と言った彼にミツコはよく似合う。
完璧主義の鬼監督として有名なチャップリン。彼が満足するまで延々と続いた撮影がようやく終わると後片付けが始まる。セットを取り壊し、照明機具を下ろし、衣装を洗濯して箱詰めにし、フィルムを整理して、皆さようならを告げて家路に着く。
舞台や映画は戦い。ヒットして興行収入が沢山入る保証は全くない。監督、俳優、演出、大道具小道具、照明...どのポジションにいようが次の仕事が入ってくる確実性はどこにもない。芸能人は究極のフリーターである。サラリーマンは味わうことのない、人生をかけた血と汗と涙の真剣勝負の短期決戦の日々を生きている。それだけに作品が完成した時の喜びは筆舌しがたい。
同時に舞台や映画は夢だ。それまでバラバラだった人々が一つの目的のために集まり協力して何かを作り上げるという儚い夢。それが終わるとまた個々の生活に戻っていく。何かを達成した満足感と同時に、何かが終わった損失感も押し寄せる。
夏草や 兵どもが 夢の跡
誰も居なくなったスタジオに1人、彼は立つ。次の映画の成功を夢見て。
ミツコは始まりが終わりになった瞬間、終わりが始まりになった瞬間の光と影が織りなす憂いの香り。
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