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クチコミ
こじらせている。心の中でいつも何かが戦っている。闘争の赤と逃走の青。2つが混じり合って心はずっと紫だ。「そんなの絶対許せない」と赤く燃える一方で、「本当はどうでもいい」と青い斜陽を決めこむ。心の色はそのときどきの土によって紫陽花のように変わる。赤くなったり青くなったり。それでも100%の赤や青にはなれない。ただ、紫色でいれば心は落ち着く。だから人は、ときに紫の香りを心のどこかで求めることがある。
紫の香りと言えば、まずスミレの花の香りが思い浮かぶ。バイオレットフィズという紫のカクテルの香りや味わいを思う方もいるだろう。バイオレットフィズに使われるのはニオイスミレの香りを用いたパルフェ・タムールという紫のリキュールだ。ゲランのアンソレンス・オードパルファム(以下EDP)は、そんなスミレの香りがする。
では、スミレの香りと評されることが多いアンソレンスEDPは、一体どんな香りだろうか。
アンソレンスをつけると、まず立ちのぼってくるのはベリーキャンディ風の甘さだ。スミレのシングルノートで有名なグタールのラ・ヴィオレットは、トップからグリーンな苦味が立ちのぼってくるのに対し、こちらは甘くフルーティーなイントロ。ただその下にメランコリックな紫色の香りが広がっているのがわかる。さながら、いちごアメとスミレの砂糖漬けを同時に口に入れたような赤と紫のトップ。
アンソレンスはよく「スパイラルに変化する香り」と紹介される。これはどういうことかというと、調合香料がどの瞬間にどんな感じで出るのか予測がつかず「連鎖的な変動」をしていく、といった捉えでよいと思う。例えばアンソレンスを構成している香料のうち、特徴的なものは次の3つだ。
・不二家ポップのイチゴキャンディっぽい甘さ(赤)
・バイオレットフィズのようなスミレとローズ(紫)
・おしろいやベビーパウダーのふんわりパウダリー(白)
これらの香料が同時に出てくるタイプで、ときにどれかが強く香ったり全く感じなかったりと、連鎖し合いながらバランスを変えて香り続ける展開をする。「あ、いちごアメだ」と思った次の瞬間、スミレの香りが届いたり、不意にベビーパウダーを感じたりと、ふわりふわり螺旋状に旋回しながら登りつめていくイメージ。まさに初期ボトルの半球らせん3段型のように。
香料の割合的には、ベリー:スミレ:アイリス=1:5:4くらいなので、スミレのイオノンとアイリスのイロンの香料が強い香水ではある。この2つは親戚みたいな関係なので、混じり合うように香る特徴がある。同時に、スミレの香りのイオノンβはベリー系にも含まれるため、こちらも親和性が高い者同士。つまり、この3つは常にシンクロしながら個々に香ることで、幅広い嗅覚レンジを攻められるよう化学的にセットされているわけだ。まさに、どこから何が飛び出してくるかわからない紫色の波状攻撃、黒い三連星のジェットストリームアタックそのものだ。(←また言ったよ)
付けてから5〜7時間。イオノンもイロンも、重くて揮発の遅い香料なので、ゆっくりじっくり長く揮発する。清楚で控えめなスミレの香りにほんのりイチゴ味が寄り添っているので、成熟した大人の女性の香りになりすぎず、ほんのり可憐さを与えている。決してガーリーではないストロベリーの甘さ、この配合バランスが奇跡的にすばらしい。
スミレの香りは、心がやられているとき、曖昧な状況で先が見えないとき、心を安らげてくれる鎮静効果を持っている。香りにもバイタリティがあって、元気な香りは心が元気でなければつけられないし、華やかな香りは心がオープンに開いていなければ似合わない。けれど、スミレの紫フローラルは、心が辛いときに何も言わずただそばにいてくれる。寡黙な友だけれど、誠実な優しさに満ちている。
年度の変わり目、季節の変わり目、新しい環境に飛び込んで、心が戸惑って居場所をなくしているとき、もし心がため息をついていたら、こんな香りとともに過ごしてみるのもいいだろう。心を二極化する必要はない。赤い闘争にも青い逃走にも疲れたら、白い繭の中にこもって、紫の夢を見てゆっくり沈んでみるといい。そんなとき、ゲランのアンソレンスはあなたのわがままにとことん付き合ってくれるだろう。
こじらせている。なんてすてきなことだろう。人間はもともとDNAの二重らせんでできているねじれた生き物だ。二極化を目指す世界は悲劇の色彩に満ちている。赤と青のらせんが紫の心になって世界を優しく沈静させるなら、空はいつでも紫色でいい。心も紫色のままでいい。
人間は不確かな生き物。あなたはあなたの心を守るためなら、もっと自分に傲慢でいい。アンソレンスの紫の香りがそっとささやいている。
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