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フランスではないけれど、ルールブルーがよく似合う街で過ごしている。ボヘミアンな雰囲気がある街で。
タトゥーショップ、古着屋、カフェが沢山あって昔は倉庫街だった場所。夕暮れにはどこからか恋人たちが繰り出してくる。私もずっと憧れていた男性とアンティーク調の古びたテーブルでお酒を嗜みながらたわいもない話を楽しんでいる。誰かのくだらない噂話ではなくて、お互いの私事をポツリポツリと語りながら変わりゆく空の色をずっと眺めている。茜色の空は遠い昔に祖父におねだりして取ってもらったよく熟れた柿の実みたいだなんて思いながら。
ルールブルーのトップノートはまるで20世紀初めにトリップしたかのようなレトロな香り。ゲランのクラシックな香水によくあるスタートだ。ベルガモット、アニス、ネロリ、レモン、ベルガモットの組み合わせはパリッとしたビジネス用のジャケットみたい。思わず背筋がのびる。
トップからミドルに移り変わるころ私の肌の上だとアニスが強く香る。アニスシードで香り付けした少し癖のある洋酒アニゼットみたいだ。このアニスシードはイタリアのビスコッティにもよく使われている。この街には大きなガラス瓶に入れた計り売りの小さなクッキーを置いている店があって人気だ。ヨーロッパの田舎町の駄菓子屋を再現したかのような雰囲気がホッとさせてくれる。アニスの残り香が香り出したばかりのラストノートのバニラと相まってビスコッティを買いたい欲がやたらと刺激される。でもそれは消費者の購買欲を掻き立てるためにバニラの香料をガンガン入れたものではなくて、イタリアのお母さんが家族で食べるために焼いたビスコッティみたいに素朴な香り。
この頃になるとトップの少しかしこまった雰囲気も段々と和らいでいく。まるでジャケットを脱いで首までしっかり留めていたボタンを2つばかり外したように。さっきまでの真っ赤な夕焼けも上の方から少しずつ夜の色に変わってきている。
彼が子供のころのエピソードをポツリポツリと語りだす。
今までずっと思っていたけどデートで子供の頃の思い出話をする男性は多い。恋愛心理学なんてものによると、どうやら幼少期の話というものにはお互いの距離を縮める効果があるらしい。彼の話を聞いているうちに母の白粉の匂いを思い出した。
ヘリオトロープの香りの魔法の粉。大人の女性が使うその白い粉に幼い私は憧れを持っていた。髪を整えて仕事用のカッチリした服を着て化粧をして家を出て行く母。ドアが閉まった音を確認してからその白粉にこわごわ触ってみた。サラサラした質感、ほんのりとしたいい香りは今も心に焼き付いている。大人になったらこんな匂いのする人になりたいと思った。
ミドルノートには花の香料が何種類も入っているにも関わらずヘリオトロープとバイオレットの印象が強い。少しスパイシーなクローブも入っているのもわかる。もう少し寒い季節になったら香り方も変わるのかもしれない。
誰かがドアを開けるたびに少し冷たくなった夜風が入ってくる。さっきまで茜色だった空はあっという間に深い青に変化した。家路に着く人々が地下鉄の駅から出てくるのが見える。
帰る場所か。
遠い昔、小学生のころ私が作文で書いた文章に先生が度肝を抜かれていたっけ。
「私が帰る場所はどこか遠くにあるような気がする」
10才の子供が書く文章ではない。どういうわけかそんな言葉が浮かんだからそのまま詩に書いただけなんだけど。
それから何十年も経って私はそれを書いた時脳裏にあった街に居着いた。
ラストノートはどうしようもなく懐かしい香り。かなりの量のバニラが入っていることは確かだが、ベチバーも入っているせいかお菓子感はない。アイリス、バニラ、ベンゾイン、ムスク、サンダルウッドの割とよくある調香で、この組み合わせはリネンウォーターを使ってシーツと枕カバーにアイロンがけをしたフカフカのベッドを思い起こさせることが多い。
妄想と言われてもしかたないが、何故かベッドそのものというより私の隣で安らかに寝ている誰かの肌の匂いも同時に連想させるのだ。燃えるような感情は抱かないけれど、安心して帰っていく場所で待っていてくれていそうな人。
多分、彼と恋に落ちる。
この街で。
この青い時間に。
トップノート: アニス、コリアンダー、ベルガモット、レモン、ネロリ
ミドルノート: ヘリオトロープ、クローブ、カーネーション、バイオレット、ジャスミン、ブルガリアンローズ、イランイラン、蘭、ネロリ
ラストノート: アイリス、バニラ、ベンゾイン、ムスク、サンダルウッド、トンカビーン、 ベチバー
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